The Azure

動き

日はまた昇る(昇らない)

「散歩をするときは普通とは違う風に歩くようにしないとね」とワイアットがこぼしていたのを耳にしてから、ポールの散歩は少々ぎこちなくなってしまった。ある日の散歩では小鳥をひたすら目で追いかけ、またある日の散歩では南の方角へは行かないように気を付けた。それまでは何も考えずにただぶらぶらと歩いていたのに。そこでポールが自らのワイアットへの好意を見つけたとき、すでに季節を3つ越していた。

 

ポールがそのことをワイアットに伝えたとき、彼ははははと2秒笑った。リュイスはその2秒間だけ彼に認められたと感じ、帰りに五目屋の今川焼を買おうかと考えてた。結局ポールが今川焼を買うことはできなかった。五目屋は先月の末に閉店していた。

 

 

「PayPayで」とワイアットが呟いているのを聞いて、リュイスは「君はほんとうにくだらないやつなんだな」と言って聞かせた。うろたえたワイアットはコホンと咳払いをして「PayPayで」と吐き捨てた。

 

「2秒間だけ笑ってくれよ。君のその乾いた笑い声を聞きたいんだ」

「どうしてもというならいいけれど、ははは」

 

彼の笑い声を聞いてポールは散歩のことはもうどうでもよくなった。何が散歩だ。そんな無駄なことをしている暇があるのなら、糸を紡いでいた方がましだ。

 

「ふたりで一緒に紡績機械を発明しないかい?」

「急に一体どうしたんだい」

「いいじゃないか、俺さ君とならうまくやれるような気がするんだよ」

「そうかい、いいね。ははは」

 

ポールはワイアットがきっかり2秒間だけ笑ったのを聞き逃さなかった。

 

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